暖炉施工屋
暖炉屋っていっても、暖炉だけ作ってる訳じゃないよ。建設業が主な仕事なんだ。暖炉は厨房の炉も含めて、年に1〜2個作るだけさ。ダラットは暖炉のある家が多いけど、ほとんどは昔のフレンチヴィラで、新しく作る人は少ないからね。
祖父が二人とも建設業でさ、母方の祖父は暖炉の専門家だった。昔、フランス人と一緒にヴィラをいくつも建てて、暖炉の構造を覚えたんだ。オレは子供の時から祖父の仕事を手伝ってたから、彼からいろいろ暖炉のことを学んだってわけ。78年からはホーチミン市の建設学校でちゃんと勉強もしたんだよ。卒業後は建設会社で6年働いた。ダラット郊外の水道設備工事にも携わった。 暖炉の材料、耐火煉瓦はドンナイ産。1個2000ドンもするんだよ。これを積む時にはセメントじゃなくて糖蜜を使う。チャムの遺跡もこの方法で作られてるよ。昔は砂と糖蜜を混ぜたんだが、75年頃からソームットという白い粉とも混ぜるようになったんだ。火元から遠くなるに従って、さらにセメントを少しずつ混ぜ込むのがコツさ。暖炉は形だけは誰にでも作れるけど、見えないところに重要なポイントがある。一つは煙突内に強い上昇気流を発生させるために、煙突をなるべく高くすること。
もう一つは煙棚を作ること。火が小さくなると上昇気流が弱くなるだろ。そうすると煙は空気より重いから、煙突内を下がってくるんだ。それが部屋の中に逆流しないように溜めて置くところが煙棚さ。これがないと部屋が煙くなっちゃうってわけ。
最近はフレンチスタイルの家が見直されてきて、暖炉を持つ人も増えてきた。だからもっと経験を積んで、将来は暖炉専門で仕事ができたらいいと思っているんだ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(ベトナムスケッチ2004年12月号) |