天秤棒おこわ屋
1954年に3ヶ月の長男を連れて、宿六(旦那)の家族共々ハイフォンから出てきたんだ。それからずっと同じ場所でソイ(おこわの一種・ベトナムの典型的な朝食)を売ってる。50年なんてアッと言う間さ。メニューは3種類。テト前にはバインチュンも売る。朝飯だから5時には商売開始さ。そうしないと客を逃がす。だから仕込みは1時からだよ。柔らかく仕上げるためには3時間以上かけて蒸さなきゃあだめなんだよ。
宿六の稼ぎが悪いからね、ソイ屋で子供10人を育てたようなもんさ。ひとつ1000(8円)〜5000ドン(40円)だけど、毎日40kgを売りつくすから、月に300万ドン(2万4000円)は稼ぐよ。今じゃあ子供もみんな独立したから、老後のためにしっかりタンス預金だよ。雨が降ったら後ろの店の軒を借りる。以前は店の中に入れてくれたんだが、今じゃあこの辺もみんな小綺麗なブチックなんぞになっちまったんで、そうもいかなくなった。
1975年以前よりも今の方が客は多いねえ。戦後は外国に行った客も多くて、一時は寂しくなったけど、みんな朝飯食わなきゃ働けないから、それほどひどいことにはならなかったよ。客はほとんどベトナム人だね。外国人はたいていベトナム人と一緒に来るよ。越僑の中には、ベトナムに来るたびに寄ってくれるのもいるし、空港に向かう道すがらいくつも買っていくのもいるよ。
毎朝3区の家からここに来るのさ。今じゃあ長男がシクロ漕ぎでさ、自分のシクロで送ってくれるけど、昔はバスやセラム(乗合オート三輪)に乗ったり、シクロを雇ったり、大変だったもんだ。滅多に病気もしないし、3年に1回くらい行くニャチャンやフエへの旅行を楽しみに、働けるうちはまだまだソイ屋を続けていくさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(ベトナムスケッチ2004年2月号) |