いつか見た、郷愁の街へ
どうしてこの料理は旨いのか。なぜこんなにも景色が美しいのか。物事には、とかく理由が求められる。
ベトナム最大の商業都市ホーチミン市は今、建設ラッシュのまっただ中。街のあちらこちらに高層ビルが姿を現し、お洒落なブティックやカフェが毎月のようにオープンしている。それなのに、この街を訪れた誰もが口をそろえる。
「どこか懐かしい」。
街並み、強い日差し、湿度の高い空気、そして人々の姿。南国の街は決して日本と同じではない。それでも誰もがこう言うのだ。
「日本の原風景のようだ」と。
急スピードで近代化を続けるこの街で、あなたは何を思うだろうか。異国の地で、体内に刻まれた見知らぬ記憶が、ゆっくりと目を覚ます。匂い、音、人いきれ。屋台料理の湯気のように、ゆっくりと立ち上るいつか見た光景。
旨いものは旨い。美しいものは美しい。ただなんとなく、理由もなしに感じる旅。そう、ここは、どこか懐かしい、郷愁の街・サイゴンなのだから。 |