歯の話
本当に抜いてもいいの?
Dr.「Onoさ〜ん。ベトナム人の患者さんは、すぐに歯を抜きたがるので困りますよ〜。」
Ono「抜かなければならない程、ひどい症状なの?」
Dr.「違いますよ。治療をすればまだ大丈夫なのに、歯を抜かないと治らないと思っているんです。いくら説明してもなかなか理解してもらえないんですよ…。」
近年、ベトナムの歯科診療は急速に進んでいますが、つい数年前までは路上の床屋さんのように「路上歯科」が存在し、治療は「抜歯」のみであったことは、ベトナム長期滞在の方や地方にお住まいの方でしたらご存知ではないでしょうか? もちろん現在では、ベトナム人医師たちが診療所や大学で先進国と同様の教育を受けて、自国の口腔衛生向上のために、闘志を燃やして頑張っています。しかし、一般のベトナム人には、「歯は抜かなきゃ治らない時代」が長かったため、まだまだ彼らの理論にはついていけないようです。 でもちょっと待って! 「もう抜いてくれぇ〜!」と言うのはベトナム人だけではありません。歯痛に悩まされた方なら、誰でも願ったことがあるのではないでしょうか? 歯は歯茎の下の歯槽骨に植わっていますが、骨と歯根の間には「歯根膜」という膜があり、それがクッション材の役割を果たしています。これがあることによって、人は食べ物の食感、いわゆる「歯ごたえ」を感じることが出来るのです。しかし歯を抜いてしまうと、この「歯根膜」はなくなってしまいます。「入れ歯」になると食べ物が美味しくなくなるのは、「歯ごたえ」を感じられなくなるからなのです。キュウリが「パリパリ」と感じられないなんて想像がつきますか? 「この歯はもう神経もないし…」なんて諦めないでくださいね。歯根膜は見えない所であなたの食事を楽しくするために活躍しているんですよ。
文=歯科衛生士 小野 容子
厚誠会デンタルオフィス・サイゴン
(ベトナムスケッチ2004年3月号) |