<第八回>
カニスープ [Canh Cua]
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すりつぶしたカニの身が熱で固まって浮き身となる |
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このスープに欠かせない小ナスの漬け物は海老の発酵調味料マムトムに付けて食べる |
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前回はベトナム南部を代表するスープについて書きましたが、今回は北部のスープ「カインクア/Canh Cua」(Canh=スープ、Cua=カニ)」をご紹介します。
「カニスープ」と聞くと、日本のカニの味噌汁の様に、殻付きのカニがゴロゴロ入ったのを思い浮かべてしまいますが、実際のところ見た目はかなり地味。現地で私が初めてこの料理を見た時は「えっ?どこにカニが…?」と、疑問に思いました。見た目は野菜がたっぷり入り、緑が多くてヘルシーな感じ。でもカニの姿がどこにもありません。しかし、所々に浮いているグレーがかった茶色い浮き実、これがカニの身なのです。
作り方はとても変わっています。使うカニは、「クアドン/Cua Dong」と呼ばれる沢ガニの様な手の平に収まるぐらいに小さな淡水のカニ。ただ、そのまま食べるには小さすぎて殻をむくのが大変。ならば、殻ごと調理してしまおう…と、生のまま石臼ですりつぶして使います。甲羅を外し、味噌を取り、残りは全部石臼でゴリゴリとペースト状につぶします。市場ではこのペーストが売られていますが、カニをそのまま買って帰り、家で自分でつぶす人もいます。
作り方ですが、まずはこのカニのペーストと水を混ぜ合わせます。カニの身は水に溶けますが、殻は小さくなっていても溶けてはいないので、こして砕けた殻を取り除きます。こした液を鍋に入れて火にかけると、カニの身のタンパク質が固まって、浮いてきます。そしてカニの旨味がしっかりと溶け込んだおいしいカニダシスープが取れるのです。このカニダシに、塩や魚醤「ヌックマム/Nuoc Mam」、海老の発酵調味料「マムトム/Mam Tom」などで塩味を付けます。
そこにツルムラサキ「モントイ/Mon Toi」、瓜「ムップフオン/Muop Huong」、ミズオジギソウ「ザウズット(ザウニュット)/Rau Rut(Rau Nhut)」、空心菜「ザウムオン/Rau Muong」、ヒユ菜「ザウデン/Rau Den」、里芋「コアイソー/Khoai So」など、定番野菜を組みあわせて入れ、火を通せばできあがり。カニの身は1度取り出してカニ味噌といっしょに炒めて加えることもあります。あっさりとしていながら、旨味の濃いスープなのです。
カインクアを食べる時は、小さいなすの漬け物「カームオイ/Ca Muoi」と白いご飯と合わせるのが、ベトナム北部の人の定番の愛すべき食べ方なのです。
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