伊藤忍のベトナムめし大全/第41回 豚皮餅/Bánh Da Lợn

豚皮餅/Bánh Da Lợn 鮮やかな緑色と黄色い生地が重なり、見た目はとてもきれいでインパクトも強い 伊藤忍のベトナムめし大全このタイトルを見て、ギョッとした方もいらっしゃるかもしれません。今回ご紹介する「バインザーロン/Banh Da Lon」は、「Banh=生地ものの総称、Da=皮、Lon(北部弁で)豚」という意味で、日本語訳は「豚皮餅」となります。 しかしこのお餅、豚の皮が入っていて、このような名前が付いているわけではありません。私の料理教室でも名前を聞いて、「豚の皮や脂(ラード)を練り込んで作ると思っていた」との声も少なくありません。 また、豚という名前が出てくるので、しょっぱい味付けのお餅と思う人もいるようです。しかし、このお餅は甘く、お菓子として食べるもので、ちょうど豚の皮、脂身、赤味が重なる三枚肉の様に見えるので、この名前が付いているのです。 お餅の生地は、タピオカでんぷん粉と米粉、砂糖、水を合わせて作ります。そして生地の半量に細かくつぶしたパンダンリーフを入れ、緑色にします。パンダンリーフは、東南アジアなどでお菓子や料理に使われる甘い香りのする葉っぱで、ベトナムではお菓子の色や香り付けに使ったり、お米(インディカ米)を炊く時にこの葉を加えて香りを付けます。特にココナッツミルクとの相性がよく、チェー(Che)などにかけるココナッツミルクのソースを作る際、この葉を加えて香り付けすることもあります。 残りの半量の生地には、柔らかくゆでてからつぶした緑豆とココナッツミルクを混ぜて、ほんのりと黄色い生地にします。 この2種の生地を型に流して交互に重ね、蒸していくのです。出来上がったお餅の質感はべチャッと柔らかすぎず、ムチッと硬すぎず、表面を触ったら肌にぺたっと吸いつくようなムニュっとした弾力。日本のういろうより柔らかく、ゼリーよりも硬めで、ちょうどその2つを合わせた様な食感です。 このお餅、生地を少量ずつ流して蒸して重ねていけば多層に、たくさん注いで作れば層の数は少なくなります。各生地を本当に薄く重ねてかなり多層にしたものもあれば、緑、黄色、緑とシンプルに3~5層のみのものもあります。多層のものはとても美しいのですが、「豚の皮」らしく見えるというと、やはり層が少ないものでしょうか。 ※ハノイなどでは「九層餅/Banh Chin Tang  May」と呼ばれることもあるが、この呼び名はパンダンリーフと緑豆の生地にこだわらず、層に作っていくお餅全般を広く指す呼び方。

パンダンリーフはタコの木科の植物で、パンダナスなどとも呼ばれる。

パンダンリーフはタコの木科の植物で、パンダナスなどとも呼ばれる。香り、色付けに使う他、丈夫な葉を編んでマットにしたり、屋根を葺いたりするのにも使われる
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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