佐貫大輔さん、西澤俊理さん/建築設計事務所「S+Na.」経営者

「豊かさって何だ?」と考え抜いて、形にするのが建築の仕事。 ベトナムを拠点に、世界で活躍する建築家になる。

佐貫大輔さん、西澤俊理さん/建築設計事務所「S+Na.」経営者 ベトナムの日本人世界でもトップレベルとされる日本の建築デザイン。二人の若い建築家がその恵まれた環境から世界に飛び出し、ベトナムで出会った。大学の研究室で世界各地のプロジェクトに携わってきた佐貫大輔さんと、日本でトップレベルの建築設計事務所で経験を積んできた西澤俊理さんだ。 2011年6月、本格的な日本の建築設計事務所をホーチミン市内に設立。住宅をはじめホテルやサービスアパートメント、学校などのデザイン、設計、監理を行っている。 「建築で、新しくておもしろいものをつくりたい。僕たちに共通するのはそうした熱い思いです。ベトナムは今まさに建築ラッシュ。大規模プロジェクトから住宅に至るまで仕事も山ほどあって、僕たち若手でも十分に戦うチャンスがあるんです」。 白が基調のシンプルモダンな新しいオフィスで、今手がけているという住宅の模型を手に、二人は目をきらきらさせながら語り始めた。 「これはベトナムによくある細長い家なんですが、とにかく部屋数が多ければいいっていうこの国特有のつくり方はしません。でも日本の住宅のコピーはしたくない。ベトナムのエッセンスを取り入れた何か新しいものをつくれないかって、二人で何度も何度も激論を交わすんです」と西澤さんが言えば、すかさず佐貫さんが続ける。 「そうして何かヒントはないかって昔の写真を見ていたときに、床座を見つけて、『これだ!』って。女性クライアントの『ダラットの花畑』という要望に応えて、床をうんと厚くして土を入れ、緑を植えました。昔の家にあった可動式の壁も取り入れて、床に座る現代の心地いいベトナムの暮らしを提案したんです」。 その説明からは、自分たちが生み出した家に対する惜しみない愛情が感じられる。彼らの印象はスマートだが、その裏にあるのは小さな努力の積み重ねだ。激論のコンセプトづくりに、徹夜のデザイン画作成と模型づくり。どちらかが投げ出したくなればもう一方が粘るという二人のタッグで、これまで幾度もクライアントの信頼を勝ち取ってきた。さて、互いをどう思っているのか。 やや照れながらも「佐貫さんは常にいいものを出そうとあきらめないところがすごいです」と西澤さん。「西澤さんはコミュニケーション能力もデザイン能力も高いですね」と佐貫さんは考えた末に口にする。互いを認め合う二人が最後に言った。 「生活の豊かさって何だ? 社会の豊かさって何だ? それをどうやって形にするかにチャレンジするのが建築の仕事だと思っています。言い換えれば、どこにいても取り組める仕事。いろいろな国で多くの人たちと関わりながら新しいものをつくっていきたい。僕たちはベトナムを拠点に、世界で活躍する仕事がしたいんです」。 一つ一つの仕事を丁寧にこなし、絆を深め、ステップアップしていく二人。才能ある人材と新たなタッグを組んで、数年後はどこでどんな「新しいもの」をつくっているのか。じつに楽しみだ。
佐貫大輔 さぬきだいすけ 一級建築士。1975年富山県生まれ。2000年東京理科大学大学院修士課程修了。同大学理工学部建築学科小嶋一浩研究室の助教を経て、2009年来越。 西澤俊理 にしざわしゅんり 一級建築士。1980年千葉県生まれ。2005年東京大学大学院修士課程修了。安藤忠雄建築研究所勤務を経て2009年来越。
撮影/大木宏之、文/ミンタロウ
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