2012.01.10

No.013 かつての旧正月、今のテト/Dinh Chieu Quang

かつての旧正月、今のテト/Dinh Chieu Quang
昔の旧正月は今よりも美しく、意味深いものだった。春を迎えるためにひと月かけて、あれこれ準備したものだ。花を育てて売る郊外の村は、数ヶ月前から準備にかかる。天候にかかわらずテトに花を咲かせるために。祭壇用の紙の花を作る村では、半年前もから竹を削り、紙を切って備えた。

僕の家では父が家の壁を塗り替え、祭壇を飾り、骨壷を磨いた。母と姉妹は果物の砂糖漬けを作り、カラフルな紙で包んだ。忙しかったが、家族が集う楽しい時間。正月菓子バインチュンの出来上がりを台所で心待ちにする間、1年の楽しい思い出にひたり、新年の抱負や夢を語り合った。

元旦は寺に参拝し、「ロック/Loc/禄」という果物を買いに市場へ向かう。アオザイ姿の子供たちは親戚を訪ねて、良い香りのするホアマイの木そばで新年の挨拶を交わす。

多忙な今の時代、あらゆることが簡素化された。果物や花は配達され、バインチュンを台所でのんびり待つことはなく、作り方さえ知らない人も多い。故郷で花をめでることもない。紙の花はナイロンの花にとって代わり、テト料理も変わった。テトを心待ちにする気持ちも、昔より少なくなった。経済の発展は人々に豊かさと便利さをもたらしたが、伝統や文化といったものから離れていく。なんとも残念なことだ。

かつての旧正月、今のテト/Dinh Chieu Quang
かつての旧正月、今のテト/Dinh Chieu Quang

写真・文/ディン・チエウ・クアン
1975年生まれ。ホーチミン市在住。日常生活の写真の強さに魅力を感じ、技巧的な写真よりも、感情のおもむくままにシャッターを切る。

No.013 かつての旧正月、今のテト
Dinh Chieu Quang
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