伊藤忍のベトナムめし大全/第31回 カニ汁米麺/Bún Riêu Cua

カニ汁米麺/Buùn Rieâu Cua 北部のブンズィウクア。揚げた豆腐と豚の練り物がのる。揚げた豆腐がカニの旨味たっぷりのスープをしっかり吸って美味 ベトナムでは米麺をよく食べますが、中でもベトナム人が最も良く食べる麺が、この連載でも頻繁に登場する「ブン/Bun」という素麺のような麺です。「フォーではないの?」と思う方がいるかもしれませんが、フォーは牛か鶏の汁麺がメイン。ブンは汁麺の他、あえ麺、つけ麺などもあります。ライスペーパーでおかずといっしょに巻き、お米の代わりに食べることもあり、自然と食べる頻度が多くなるというわけです。 そんな数あるブン料理の中でも代表的な汁麺が、「ブンズィウクア/Bun Rieu Cua」(Bun=米麺、Rieu(※後述)、Cua=カニ)です。この麺料理をご紹介するには、まずは「ズィウ/Rieu」について説明をしなければなりません。 「ズィウ」とは魚介から取ったダシに酸味の付く材料を加えたもののこと。酸味といっても、酸っぱいと感じさせる程ではなく、はっきりとは感じないくらいのほんのりとした酸味、つまり隠し味程度に加えます。その目的は、魚介の旨味を感じやすくするためです。肉から取るダシに比べてマイルドな魚介ダシは、塩分だけのシンプルな味付けだと舌が旨味を感じにくいため、別の味を加えて複雑にし、旨味を感じやすく仕上げるのです。 この味付け法は、ベトナムだけのものではなく、舌が味をどの様に感じ取るのかをよく知っている人にはポピュラーな方法です。家庭では馴染みが薄いですが、和食の料理人さんなども煮物の隠し味に酢を微量加えたり、フランス料理のシェフがソースに微量のビネガーを加えるのと同様のテクニックなのです。 この麺料理のスープはズィウの中でもカニ「クア/Cua」でダシを取ったものです。以前ご紹介した北部のカニスープ「カインクア/Canh Cua」と同様、沢ガニの様な小さなカニを殻ごとすりつぶして使います。ペースト状になったカニを水で溶き、濾して殻を除き、その汁を加熱。火が通るとすりつぶされたカニの身のたんぱく質が熱で固まり、上に浮いてきます。この浮き実が具となり、さらに汁にはカニのダシがしっかりと取れているというわけです。 本場北部の伝統的なレシピでは、このスープの味付けに酸味のある「ザムボン/Giam Bong」とトマトを加えます。ザムボンはお酒を作った後の米(酒粕のようなもの)をさらに発酵させて作る非常にマイルドな調味料で、サッパリしながらも独特の旨味があるのです。代わりに米麹の「メー/Me」を加えることもありますが、ザムボンで作る美味しさにはかなわないとか。 庶民的で気軽に食べられているこの麺料理ですが、実は素晴らしく計算して味が作られているのです。味覚を研ぎ澄まし、引き立てられたカニの旨味をしっかりと感じて食べてみてくださいね。 カニ汁米麺/Buùn Rieâu Cua 南部風は甘めの味付けで、トマトや具材がたっぷり。南部弁では「ブンリウクワ」と発音する
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2010年12月に新作レシピ本『はじめてのベトナム料理』(柴田書店)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
伊藤忍のベトめし大全
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